世田谷区の『地域行政』について -4-

前回は、平成3年度に地域行政が発足し、総合支所の体制が拡充されていく様子を振り返りました。今回は、世の中が大きく変化していく中で、発足から10数年が経過し、地域行政がどのように進められてきたのか、その変遷について見ていくことにします。

少子・高齢社会の進展

65歳以上の高齢者の割合は、平成3年から平成5年にかけて、11.5%から16.6%まで上昇し、高齢化が着実に進んでいました。こうした中で、区は、地域行政と高齢社会に向けた保健福祉の充実のため、平成9年度に保健福祉センターを設置しました。

平成16年度には、高齢者の不安の解消に向けて、高齢者安心コール事業に着手し、全区展開をめざしました。

少子化については、0歳から14歳までの割合が、平成3年から平成15年にかけて、12.9%から10.7%に減少していました。こうした状況の中で、子どもがすこやかに育つことのできるまちをつくるため、区は、平成13年度に子ども条例を制定し、平成16年度には、新たに子ども部を設置するなど、子ども施策を総合的に進める取組みに力を入れてきました。

地域社会の変容

世帯数を見ると増加していましたが、世帯あたりの人員は減少し、世帯の小規模化が進んでおり、転出や転居など人口の流動が激しい状況にありました。また、地域のコミュニティ組織の代表となる町会・自治会の加入率は、平成16年には約60%となり、平成3年の65.7%から低下していました。福祉や子育て、環境保全など様々な分野では、NPOなどによる活動が活性化するとともに、学校を拠点としたコミュニティ活動も活発になり、新たな活動も生まれてくるようになりました。

高度情報化社会の進展

IT化が急速に進展し、日本のインターネットの利用人口は、平成9年に1,155万人、平成15年には7,730万人に達し、国民の約6割がインターネットを利用するまでになり、携帯電話の普及がそれに拍車をかけました。高度情報化社会の進展は、さらに加速し、IT機器を活用することで、行政の様々なサービスが受けられるようになるなど、従来の行政事務の枠組みに大きな変化を与えるものとなっていました。

厳しい財政状況と行政改革

区の財政は、長引く景気の低迷などにより、極めて厳しい状況が続いていました。このため、民間活力の活用や外郭団体の改善、職員定数の削減など、徹底した行政改革が不可欠となっていました。

地域行政の将来像

こうしたさまざまな状況の変化などを踏まえ、地域行政は、その基本的な理念である区民自治の確立をめざすため、その充実・強化と行政運営の効率化の観点から、見直しが必要となっていました。

その全体像としては、

  1. 区民主体・協働のまちづくりによる「区民自治の充実・強化」やサービスの質の向上、
  2. スピードとスリム化による「行政運営の簡素化、効率化」、
  3. 利便性の向上、区民参加の促進のための「IT化の推進」

の3点を中心に、本庁、総合支所、出張所(現在は出張所・まちづくりセンター)それぞれの役割分担と連携による総合的な取組みにより、これからの時代にふさわしい新たな地域行政の推進をめざすこととしました。

三層の基本的な役割

この基本的な考え方を踏まえ、三層それぞれの役割は、次の通りとされました。

1)新たな出張所(地区)

出張所は、コミュニティの活性化が求められている中で、地区まちづくりを強化し、窓口サービスを効率化した新たな出張所をめざすこととされました。

27カ所ある出張所のうち、区民の利用が集中している7カ所の出張所(太子堂、経堂、北沢、等々力、用賀、成城、烏山)は、これまでの窓口サービスと地区まちづくりの機能を併せ持つ拠点として整備し、また、その他20カ所は、地区まちづくりの支援に重点をおく「まちづくり出張所」にすることとされました。

職員は、より身近な地区で、区民との協働や支援を行い、区民に信頼されるコーディネイト役としての役割が求められました。

2)総合支所(地域)

組織が大きくなりすぎ、調整や決定に多くの時間がかかることや責任の所在が不明確などの問題があったため、本庁との役割を明確にするとともに、組織のスリム化を図る必要がありました。

また、防災や防犯対策、保健福祉施策、コミュニティ活動への支援など、区民の主体的な取組みや区民との協働が必要な分野については、柔軟で的確な対応ができる組織に再構築する必要がありました。

そこで、区民の主体的な活動を支え、区民との協働を柔軟に進められるよう、新たに副支所長が設置され、区民部長、保健福祉センター所長及び街づくり部長は廃止されました。また、地区まちづくりへの支援を一層効果的・効率的に行うため、区民課と地域振興課は統合されました。

地域の保健福祉を効果的に推進するため、生活支援課、保健福祉課及び健康づくり課の連携強化と本庁との一層の連携を図るとともに、地域包括支援センターなどの関係機関や区民活動との連携・支援を推進することとしました。

さらに、街づくり分野を効率化するため、土木課を本庁に集約し、新たな街づくり課は、区民参加による街づくりの推進や相談、陳情等を担うこととしました。

3)本庁(全区)

本庁は、区の方針や計画、危機管理における本部機能など全区的な統括を基本に、行政サービスの提供を一部行うこととしました。特に、行政サービスのうち、専門性の高い事務や集中化によるメリットのある事務など、本庁で実施することが効果的・効率的な事務については、総合支所から移管し、本庁で取り扱う行政サービスとして位置づけられました。

地域行政の再構築

こうしてまとめられた方向性に基づき、組織が改められ、新たな時代にふさわしい地域行政として再構築されたのです。